hapax

2012年9月17日月曜日

ノー・アイディア


このうみきらい!
(3歳になったばかりの甥)

いったいいつまで頭のよい人たちの新たな意見に耳を傾ければよいのか。いったいいつまで優れた作家の新作を待ち望めばよいのか。いったいいつまで大好きな監督の新作を待ち構えればよいのか。いったいいつまで新製品を製造し流通させ販売しお給料を貰い生活を整え続ければよいのか。いったいいつまで...
どんなに精緻で優れた現状分析もどんなに身震いする素晴らしい作品もわたしたちの内部被曝の進行を止められやしない。当たり前だと言われれば当たり前。甘えるにもほどがある。けれども今回ばかりは日々生まれる「新製品」を止めてもよいのではないか。数多の「新製品」を弄ぶことでこの生活を成り立たせ果ては日々の被爆を継続させることになんら歯止めをかけることができていないのならば。「新製品」を止めるとは具体的にどうするのか。そんなことこちらに聞いて貰っても困る。よいアイディアなんてあるわけない。わたしたちはこれまでもノー・アイディアだったしこれからもノー・アイディアだ。次の段取りを想像することすら疎ましい。考えられない。頭わるいし。
「モン・パリ」(ジャック・ドゥミ)である日突然つわりに似た症状を訴えるマルチェロ・マストロヤンニは男性の妊娠について研究している産婦人科医に妊娠4ヶ月と診断される。ついに男性が妊娠したという噂は学会発表から新聞、テレビとまたたくまに広まりパリのあちらこちら、そして世界中の男性にもつわりの症状が現れ始める。臨月を迎えるころマストロヤンニの妊娠はまったく気のせいでお腹の膨らみは脂肪だったことが判明する。それでもこの冗談みたいな「男性が妊娠した」という噂を聞いたフランス中、世界中の男性が「つわり」を感じ始めるエピソードこそこの映画の肝ではないか。
放射能まみれの終わらないこの生活を終わらせた後はどんな生活になるのかはさっぱり思い浮かばないし生活しなければならないのかも知らない。それでも新しい巧緻で精確なひとの意見の生産を続けていてもどんどんぶらぶら病の症状が悪化するだけさ。せめてマストロヤンニの妊娠みたいにたった一度の荒唐無稽のでっち上げで世界中に「おしるし」が現れる。そんな批判でも分析でも創造でもないパッションをつわりとして拡げることはできないのかしら。できないな。もうよくわからないよ。


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